サイクス博士がこの本を『アダムの呪い』と名付けた理由はまさにY染色体の強欲とも言える家長制の支配、悲痛、貧困そして破壊という悪夢を伝えるためだった。男がY染色体と手を取り合って富と権力のためにつくりあげてきたこの世界図は暗い...まさに「諸悪の根元は男だ!」と男である博士が言っているのは何か変な感じだ。ただし女も負けていない。ミトコンドリアDNAは娘を通して「仕返し」をたくらんでいるかもしれない。
第二十二章 タラ一族の精子
昆虫学者としても有名な医師サー・シリル・クラークは、オーストラリアのクイーンズランドに生息するリュウキュウムラサキのうちある一定の場所でつかまえたメスが「メスの子孫」しか作らないことに気がついた。顕微鏡で調べたところ産んだ卵のうち孵らなかったものは全てオスであり、その資質はメスの子孫に受け継がれていくことを発見した。受精にはオスを必要とするが、静かに息子たちは殺されていた。てんとう虫の中にも繁殖実験の結果同じような例が見つかった。こちらは生まれたメスの幼虫が殺されたオスの卵を餌に食べている。タマゴヤドリバチはチョウやガの卵の中に自分の卵を産みつける。幼虫はチョウやガの卵や中身を食べて大きくなるのだ。タマゴヤドリバチにはオスが見つからない。性を捨てた種なの� ��ろうか?ところが抗生物質のテトラサイクリンがたっぷり入ったはちみつを与えたところ、ハチ達からはオスとメスの子供が生まれ、独身時代が嘘だったようにオスとメスによる生活を何世代も続けた。細胞質内に含まれたなんらかの細菌が子孫の性をコントロールおり、テトラサイクリンを投与し続けるうちに細菌が消滅してしまったようだ。オス殺しはメスのクローン繁殖という結果につながるが、人間にもオス殺しはあるのだろうか?トレーシー・ルイスの例のように9世代にわたって女性の親戚が78人、息子が生まれたことは一度もないというフランスの女系家系も見つかっている。一億分の1の確率で女しか生まれない原因はミトコンドリアDNAなのだろうか?
立体痛み
スペインの医師チームは男性の生殖不能症を調べるためにY染色体ではなくミトコンドリアDNAに注目した。生殖不能症の男性に限らずマドリードとザラゴンツァから600人近くの精液サンプルを手に入れて顕微鏡で見た精子の活力をAからDまでのランクづけをした。スライドグラスの上をすばやく動きまわり、尻尾をしきりに鞭打ってるのがAランク。動くことは動くが、多少ものぐさな動きをしているのがBランク。ばたつくだけで移動をしないのがCランク。ばたつきも移動もせずにじっとしているだけのものをDランクとした。CとDの精子ばかりを持つ男性はずばり虚弱な精子を持つ男性に分類されたのだ。精子というのはY染色体だけで構成されているわけではない。精子の頭と尻尾を連結する部分には約100個ほどのミトコンドリアDNAが含ま れている。ただし卵子にこの連結部分と尻尾は入場を拒否されるので、卵子に到達できるのは核を含んだ頭だけだ。つまり卵子目指して泳ぐときのエネルギー源で、必要な触媒である酵素を含むミトコンドリアが毒されているとしたら精子は泳げないのである。先天的な生殖不能症には治療方法がないとも言われる。
男性が母親から受け継いだミトコンドリアDNAに精子をカナヅチにしてしまう突然変異があったらどうなるだろうか?そこでスペインのチームはサンプル提供者をサイクス博士が『イヴの七人の娘たち』でクラスターごとに名前をつけたヨーロッパの各一族の母親に分類した。タラ一族に属する精子だけが他の6族に比べて動きが緩慢で、試験管の中で精子を泳がせてみた結果は時速7ミリメートルとやはりビリだった。一方ヨーロッパで一番多く見られるヘレナ一族は時速11ミリメートルという速さでトップだった。どの一族に属していても女性子孫には当てはまらない。しかし一族の男性としては精子のレースで遺伝によるハンディキャップを背負っているかもしれない。Y染色体が数で勝負で孕ませる荒々しい方法と違い、ミトコンドリ� �DNAの性戦争の作戦は息子に毒ミトコンドリアDNAを仕込んで精子の勢いを衰えさせるなんて地味だが残酷だ。
gewnetic障害
第二十三章 同性愛遺伝子
生殖不能症と同性愛の男性は一般的には同等にみなされることはない。パタリロに出てくるバンコランは同性愛者だが、バンコランの叔父さんなんかも同性愛者だったはず。同性愛は遺伝するのだろうか?サイクス博士は科学者として長年にわたって遺伝的な病気について研究してきた経験から、同性愛が、深刻な遺伝病に見られる遺伝的特徴をいくつか持っていることは否定できないと書いている。もし同性愛遺伝子というものがあるとすれば何故絶滅せずに未だにたくさんの同性愛者が存在するのだろうか?遺伝病もまた○○なら不妊だという遺伝病があれば、誰も○○でないはずなのにそれが原因の不妊消滅はしない。そういう次世代に遺伝子を引き継がせるチャンスが少ないという意味で遺伝病と同じだということだろう。同性� ��者は言うまでもなく異性愛者よりも子供の数が少ないはずだが、絶対にいないというわけではない。遺伝することを前提にすると、同性愛者が絶対に妊娠しないのであればバンコランは同性愛者のいる家系に生まれてこないことになる。サイクス博士はレズビアンではなく男性の同性愛者と遺伝子のつながりを考えた。
enviormentaly引き起こされる心理的障害
人間の特徴は何も遺伝子だけで決まるわけではなく、環境の影響は大きいことは確実だ。先天的な遺伝因子と後天的な環境因子が影響を与え合って人間を形成している。環境から同性愛となった人もたくさんいるだろう。人間は親子であっても兄弟姉妹であっても別々の遺伝子を持っているわけだが、全く同じ遺伝子で比較研究する場合に重宝されるのが一卵性双子という存在である。ワシントンDCにある国立衛生研究所でディーン・ハマーが行なった双子研究では、男性の同性愛の一致率が一卵性双生児は57%で二卵性双生児だと25%だった。ハマーはワシントンで同性愛雑誌やエイズ・クリニックを通じて同性愛のDNAサンプルを入手して彼らの家系図を作成。その結果彼ら男性同性愛者の多くに同じく同性愛のおじがいることに気がつ� ��。それも母方のおじに限られていた。ということはX染色体上の遺伝子の影響が考えられる。女性がX染色体を2つ持つのに対して男性は1つしか持っていない。血友病や色盲もX染色体上の突然変異で、X染色体の突然変異遺伝子を正常な遺伝子に封じ込めることができないために男性だけに起こる。母親からのX染色体2つのうちどちらか1つがランダムに息子に受け渡されるのであるが、40組の同性愛兄弟のX染色体は33組が同じX染色体を受け継いでいた。ハマーはX染色体の中の兄弟に多く共通部分を調べ、どの位置がその遺伝子になるのかも割り出した。これは血友病の遺伝子の近くでもあり、同性愛を嫌悪する人々は「同性愛を遺伝子治療で治す」と宣言しだして大騒ぎとなった。
鎌状赤血球貧血とは第十一染色体上に起こる遺伝子の突然変異だ。この病気を発症する人は突然変異を2つ持っており、正常な第十一染色体と鎌状赤血球貧血遺伝子を含む第十一染色体を1本づつ持つ人は保因者と呼ばれる。アフリカの一部では毎年十万人の鎌状赤血球貧血保因者が産まれる。何故なら保因者はマラリアに対する強い抵抗力を持っているからだ。マラリアは鎌状赤血球貧血の赤血球には入り込めないからマラリアが風土病の西アフリカでは正常な保因者でない者よりも生き残る確率が高くなる。保因者同士の子供が鎌状赤血球貧血遺伝子の第十一染色体2本を4人に1人の割合で持って生まれて死んだとしても埋め合わせができるのである。本当に同性愛遺伝子なるものがあるのだろうか?あるとすれば次世代に受け継がせる� �とができないという欠点を埋めるだけの利点が保因者(同性愛男性の母親や姉妹)になければならない。
サイクス博士は男性の同性愛がX染色体と関係しているはずがない、関係しているのは母親から受け継いだ女性のシンボルといえるミトコンドリアだと考えはじめた。同性愛の男性に兄弟より姉妹が多いということはない、しかし同性愛の母親は圧倒的に姉妹が多く、同性愛の男性はおじさんよりおばさんがはるかに多い。性的志向は間違いなく文化や環境が大きく影響するが、胎内で母親によって影響を与える機会がある可能性も示唆されている。性自認と性的志向に大きな影響を与える構造は胎児の脳形成において初期段階で形づくられることがわかっている。子供と同じように胎児も指をしゃぶるが、その時に使う手はそのまま利き手となるようだ。同性愛者の中には左利きの人が多く、利き手というのは初期の神経的発育で決まる ので性的志向もその段階で決まるのではないかと考えられる。
右手を見て欲しい。薬指と人差し指の長さがどれぐらい違うだろうか?あなたが女性ならそれほど変わらないはずだが、男性なら薬指の長さが際立つ。同性愛の女性は男性に近い指の長さの差を持っているそうだが、これも胎児の早い段階で性ホルモンのアンドロゲンによって指が形成される。しかし同性愛の男性と異性愛の男性では変わりない。ミトコンドリアDNAにとってY染色体を犠牲に優勢を得る一番のチャンスは確かに子宮内かもしれない。同性愛者には兄が多いというのも、最初の男の子妊娠でH-Y抗原を知った母体が2番目の男児妊娠で予防注射の免疫のように拒絶反応が起きるのではないかということだ。ということは次男以降、下の子になればなるほど影響は濃くなるかもしれない。
これらは同性愛を完璧に説明できるものではないが、何故同性愛が遺伝すると仮定することで悩みの種となる「何故急速に絶滅しないのか?」という疑問はすっきりする。たまにテレビで見るが性同一障害といって悩んでカミングアウトする人々はY染色体とミトコンドリアDNAの性戦争においての被害者なのかもしれない。母親ミトコンドリアが息子を同性愛にしてしまうとすると動機は復讐だろうか?ミツバチの話を思い出してみると、利点としては小さいがミトコンドリアDNAはY染色体を排除するだけでなく同時に手伝いを得ているのかもしれない。
アダムの呪い1
アダムの呪い2
アダムの呪い3
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アダムの呪い7
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アダムの呪い11
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